【書評】現代ステンドグラス入門



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現代ステンドグラスとは?

この本は、1984年に発刊された本で、今から33年も前のものになる。著者は、佐藤新平さんという、今もガラス作家として活躍されている、業界では有名なお方。

古いだけあって、今は普通の本屋では売られていない。今回は、amazonにあった中古のものを見つけて購入することで手に入れた。上の写真でも分かる通り、随分と黄ばんでいて痛みもあるが、読む分には全く問題ない。

タイトルが「現代ステンドグラス」となっているのがミソで、今売られているようなステンドグラスの作り方が書かれた本とは一線を画す内容になっている。

そもそも、現代ステンドグラス(Contemporary StainedGlass)とは何を指すのだろうか。これは、いわゆる巷で良く見る、均一なケイムの線でガラスが区切られた「普通」のステンドグラスから、もう一歩進んだもの。ケイムの線に強弱を付けたり、ケイムの線をガラス上に偽装したりする、プラスアルファの表現・技法を加えたものだ。従って、従来の普通のステンドグラスは、現代ステンドグラスに内包されていると言える。

30年以上前の「現代」だから、今はもう古いのでは?と思う人もいると思うが、その点は大丈夫だ。確かに、作例などは多少古さがあるかもしれないが、本の内容の骨子の部分は、全く古さはない。ステンドグラス業界は、特に30年前から技法的には何も進んでいないからだ。

現代ステンドグラスの具体的な作例は、上の映像にあるようなものだ。世界的な巨匠クラスだと、この本にも出てきているヨハネス・シュライター(Johannes Schreiter)、ナルシサス・クァグリアータ(Narcissus Quagliata)や、ルードヴィヒ・シャフラット(Ludwig Schaffrath)などが、現代ステンドグラス作家にあたる。

日本だと、著者の佐藤新平さんをはじめ、斉藤行子さん、高見俊雄さんなどが有名どころだろうか。

砕けた言い方をすると、普通に昔ながらの技法で制作している人から見て、なにこれどうやって作ってるの?という感じの、工芸というよりART寄りのステンドグラスが、現代ステンドグラスだ。

章立て

この本の章立てと概要をご紹介する。

第1章 現代ステンドグラスの潮流

紀元前のガラス誕生から、ルネサンスにおける全盛期、その後の衰退を経て、現代ステンドグラスに通じるまでの道筋が簡潔に分かり易く述べられている。

第2章 ガラスの種類(制作に入る前に)

アンティークガラスやそれ以外のガラスについて、具体的なガラスの製法からそれぞれのガラスの特徴、種類まで、細かく記されている。

第3章 制作

以下の製法に分けて、制作手順が詳しく記されている。

・レディット・ガラス(leaded glass)・・・ケイムを使った一般的なステンドグラス。

・カッパード・ガラス(coppered glass)・・・コパーテープを使った、ステンドグラス。

・ファセテッド・ガラス(faceted glass)・・・いわゆるダル・ド・ヴェール。

・ラミネーテッド・ガラス(laminated glass)・・・ガラスの間に別素材を挟む技法。

・ペインテッド・ガラス(painted glass)・・・絵付けステンドグラス。

道具やガラス以外の材料の紹介から始まり、デザイン~完成までの各工程についての手順が載っているのだが、単なる手順だけに止まらず、デザインや型紙作成、ガラスカットや組み、ハンダ・パテ・仕上げまで、独自の方法論に基づく具体的な手順が余すところなく記されている。この本の半分は、この章である。

第4章 施工の実際

パネルの取付方法が図入りで細かく説明されている他に、室内の壁面に設置する際の人工照明の当て方なども大いに参考になる。

第5章 様々な素材と形態

著者の生徒さんの作品紹介をメインに、ステンドグラスの多様性を具体的に説明した章。


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ヨハネス・シュライター 作

感想・評価・気になった点など

この本は、基本的には建築用のパネルを想定して書かれているので、ティファニーランプや小物制作の話は出てこない。

従って、入門書とはうたっているいるが、これから教室に通って趣味でステンドグラスを始めようとする初心者の方には、この本は厳しいと思う。逆に、プロでバリバリやっている比較的若い人には、ためになる知識が多いのではないか。

印象に残った記述

・アンティークガラスは、気泡の形とクリスタルライン(ストライエーション)の付き方でメーカーを判別できる。

・カーバイトカッターのくわえを使ってガラスのえぐりの処理をする方法。

・ケイムよりコパーの方が強度が上である(※条件にもよると思うが…)。

・ケイムをヤスリで削ってラインの強弱をつける。

・焼き石膏を使って、ガラスのクリーニング・艶出しをする。焼き石膏を使うとパテの乾燥も早い。

・64ハンダと55ハンダの使い分け。55はハンダが流れにくいため、それぞれを適所で使い分ける。

一方で、30数年前と比べて、今では違ってきている部分もあるとは思う。

・ガラスの割り取りについては、当時はなかった便利なプライヤーが今はあるので、それを使った方が無難かもしれない。。

・フッ化水素酸を使ったアッシド・エッチング(acid etching)は、フッ化水素酸の危険性が良く知られるようになったこともあり、危険すぎてほぼ行われなくなった。そもそも、今はフッ化水素酸自体の入手が難しい。

あとは、ステンドグラス制作で最も肝心な、デザインの発想法や着想の仕方、デザイン論・色彩論的なことは書かれていない。


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ナルシサス・クァグリアータ 作

日本にあるステンドグラスの制作工房にも、ざっくりとした系統のようなものがある。ヨーロッパ(主にドイツ)系、アメリカ系、日本系と言った具合に。そして、多くの工房が、最初に学んだ系統そのままで、独立しても変わることなく作り続けているように思える。

しかし著者は、アメリカのカレッジで学び、ドイツ系統の影響を強く受けているように見受けられるが、その上で、独自の技法を自己研鑽の末に生み出し、それを書籍と言う形で世に紹介している点が素晴らしい。

冒頭でも述べたが、本書は、既存のステンドグラス技法書とは一線を画す内容となっており、33年前の当時はアリだったのかもしれないが、今見るとビックリするようなことも書かれている。だが、ページ数は100ページちょっとで読みやすく、かつ内容が詰まっているので、未読の方は是非一度読んでみることをお勧めする。

現代ステンドグラス入門 -amazon

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